私の考える転倒の定義
転倒の定義
転倒って何でしょうか?
「転ぶこと」
シンプルに言うとそうなります.
シンプルすぎるので色んな人や学会の定義をみてみましょう.
- 「倒れた際に高低差の移動が生じなかったもの」(東京消防庁)
- 「他人による外力,意識消失,脳卒中などにより突然発症した麻痺,てんかん発作によることなく,不注意によって,人が同一平面あるいはより低い平面に倒れること」(Gibson, 1987)
- 「家具や壁などの構造物は除いて,意図せずに地面や床などの低値に倒れこんだ場合」(Buchner, 1993)
このように色んな表現がされています.
簡潔に言うと,「色んなことが原因で低いところに倒れこむこと」なんでしょうね.
私の考える転倒の定義
ここでは先に挙げた転倒の定義と
これまでに私が関わってきた患者さんの転倒原因
この2つから私なりの転倒の定義についてお話していきます.
私が関わってきた患者さんの転倒原因で代表的なものを2つ挙げます.
- 何かものを取ろうとして
- 小さな段差やカーペットなどにつまずいて
医療職の方であればこの2つはよく見聞きする原因ですよね.
よく転んだのは,
足腰の力が弱いからだ!
バランス能力が衰えているからだ!
と言う方がいますが,その考え方では部分点しかあげられません.
私は上記2つの転倒原因を下のスライドのように考えています.
ヒトの運動は身体,すなわち筋肉や関節だけで遂行することはできません.
そこには脳の指令があってその指令を出す前には,「こうしたいな」といった意図と運動の計画があります.
この指令によって身体は筋肉や関節を使って運動をしますが,ヒトを取り巻く環境は時々刻々と変化します.
平面,段差,階段,アスファルト,曲がりくねった道,人ごみ,砂浜,…
環境が変化した情報を脳が感知し,
理解し,
その環境に適した運動を身体に指令し,
身体がその通りに動くことで安全な運動が遂行できています.
(例:人ごみの中でぶつからないように身体をひねりながら歩く)
このスライドは,脳と身体,環境が互いに関係しあっていることを表しています.
ここで代表的な転倒原因に戻り,この関係と絡めて考えてみます.
①の「何かものを取ろうとして」転倒は,
脳がものとの距離を認知して(脳-環境),実際に手を伸ばしてみると
自分の身体の動きでは届かない距離で(脳-身体),そのまま転んでしまうという事例です.
②の「小さな段差やカーペットなどにつまずいて」転倒は
予測していなかったつまずき(環境変化)に対して,とっさの一歩を出すことが出来ず(脳-身体)転んでしまうという事例です.
①と②の事例ではどれも脳ー身体ー環境の不一致によって引き起こされていることがお分かりになるかと思います.
以上のことから,私は転倒とは
「脳と身体,環境のミスマッチが原因で同一平面,あるいは低い平面に倒れること」と認識しています.
ただし薬剤やめまい,心臓の機能によるものは例外です.
これらによる転倒事例は,上記の定義は満たしていません.
(立ち上がって目の前が真っ暗になってふらつく,睡眠薬の影響で明け方よろめく...etc)
次回以降に紹介する転倒予防体操は,この定義の範疇に対して効果的です.
おわりに
転倒は足腰の筋力低下やバランス能力の衰えだけで起きるものではありません.
脳-身体-環境の相互関係のミスマッチから起きるもの
そう考えると患者さんや利用者さんの身体機能ばかりに目を向けてちゃだめだな,ということがお分かりいただけるかと思います.