「思ったよりも」現象は転倒を招く⁉
思ったよりも・・・
”階段を降りようとしたら思ったよりも一段が高かった”
”物を取ろうとしたら思ったよりも遠かった”
日常生活を送っていて,こんな場面はありませんか?
前回のブログで紹介した脳と身体のミスマッチですね…
私の考える転倒の定義 - リハビリのすゝめ (hatenablog.com)
脳卒中や骨折などで入院している高齢者の方では,
「自分でトイレに行けると思ったけど,思ったよりも一人で立てなかった」
私の職場ではよく見聞きする転倒原因です.
このような「思ったよりも」現象は,年齢を重ねるにつれて,身体機能の低下によって多くなる現象のようです.
若い人であれば,「思ったよりも」現象が起きても咄嗟の反応が出来ますが
高齢者や身体機能に支障のある方ではうまく対応できず転倒に至ってしまいます.
認識誤差とは
「思ったよりも」現象を説明するのに認識誤差という言葉が役立ちます.
認識誤差とは,
「自分の認識している身体能力 と 実際に遂行できる能力の差」 のことを言います.
自分は100できると認識しているのに,実際70しかできないと
30の認識誤差が生じるわけですから,そこで「思ったよりも」現象が生じてしまいます.
この認識誤差について,Functional Reach Testという検査(立った状態でどれくらい手を前に伸ばすことができるか)を応用して評価している研究が多いようです.
立って手を伸ばす前に「どれくらいまで手が伸ばせそうですか?」と予測をしてもらって,
その後実際に前に手を伸ばしてもらいます.
スライドでいうところの青点線と赤線が認識誤差の距離になります.
認識誤差と転倒
興味深いことに
若い人ではこの認識誤差を過小評価(予測よりももっと遠くに手を伸ばせる)
虚弱高齢者では過大評価(予測よりも手を遠くに伸ばすことができない)
する傾向にあるようです(Robinovitch, 1999)
過少評価であれば,「ああ,もっといけたな」で終わりますが,過大評価では「思ったよりも」現象に陥ってしまいます.
認識誤差は転倒経験とも関連があるようで
転倒経験のある高齢者で過大評価しやすいこと(岡田,2008)や
認識誤差がその後の3か月間の転倒危険因子になること(杉原,2005)が明らかになっています.
転倒予防には筋力やバランス能力はもちろん大事ですが,
自分はどれくらい動けるのか?
それを認識することもとても重要であることがこれらの報告から分かりますね.
おわりに
「思ったよりも」現象についてお話してきました.
この現象の引き金は認識誤差です.
高齢者や脳卒中や骨折を受傷した患者さん達の
自分の身体能力の認識の基準は,多くの場合元気だったころであることが多いです.
その認識のまま動くと,筋力やバランス能力が伴っていないと転倒に至りやすいです.
そういった患者さんに対して,僕らがしなくちゃいけないこと
マッサージや筋力増強訓練,バランス訓練だけではないことは明白ですね…