転倒とバランス検査
はじめに
高齢者における転倒の年間発生率は約10~20%で,そのうち約10%が骨折に至るとされています(安村,2000).
転倒中の動作としては歩行が50%以上を占めていて(新野,2003),
「つまずき」,「滑り」,「よろめき」,「踏み外し」など様々な要因があります.
中でも転倒に至る最も多い要因は「つまずき」であると報告されています.
それを裏付けるように,地域在住高齢者の転倒方向を調査した研究では
転倒方向としては,前方が6割,後方が2割,側方が2割を占めています(上岡,1999).
「つまずき」は誰にも起こり得ます.
若い人や健常な高齢者であればある程度の刺激であれば,転倒せずに姿勢を復元することができます.
しかし,身体機能の低下した高齢者では姿勢を復元できずに転倒に至ってしまいます.
バランス検査
私達リハビリ職は,対象者がどれくらいの転倒リスクを抱えているのかを判断するためにバランス検査を実施します.
片脚立位検査やFunctional Reach Test, Timed Up and Go Test, Functional Balance Scaleなど様々な検査があります.
上記の検査のどれもに転倒リスクとなるカットオフ値があって
それを参考に歩行補助具の選択や環境調整を行っています.
しかしながら,これらの検査には一つ問題があります.
それは「実際に転びそうになった時の動作を評価できない」ということです.
ステッピング反応テスト
私達が姿勢を崩して転びそうになった時,足を一歩前に踏み出して新しい支持基底面を作ることで姿勢を回復します.
これをStepping戦略といいます.
この戦略がなければ,身体重心が支持基底面の外に出てしまいそのまま転倒に至ってしまいます.
対象者がStepping戦略を備えているのかを検査する方法としては,ステッピング反応テストがあります.
この検査は,検査者が対象者の前に立ち検査者の手にもたれかかるように指示します.
対象者の肩が爪先より前方に来たタイミングで検査者は手を離し
対象者のステップ動作を誘発させます.
私自身,入院中の患者さんの移動方法を自立にするかどうかでの判断材料でよく用いている検査なんですが,この検査にも問題があります.
それは外的刺激を定量化できず,検査の再現性に欠けてしまうことがあることです.
これを解決するのがTether-Release法です.
これは,背部をケーブルで牽引した状態で前傾させておいて
牽引を解除することでステップを誘発する方法になります.
図のロードセルを介在させておくことで一定量で牽引できるため定量的な外的刺激を与えることができます.
「こんなの臨床現場にないよ!」と言われる方もいるかもしれませんが,
ある研究では徒手筋力計モービィを使って実施しているものもあるので興味のある方は下記の文献を参考にしてみてください.
https://doi.org/10.1589/rika.36.85
https://doi.org/10.1589/rika.35.545
おわりに
今回は,転倒とバランス検査特にステッピング検査について概略をお話しました.
もしもの時の咄嗟の一歩が出なければ,我々は転んでしまいます.
私達はその一歩を出して踏みとどまることができるから転ばないわけで,
関節が固くなった人,筋力低下を来した人,運動麻痺がある人ではこの咄嗟の一歩が出ない,もしくは踏みとどまることができません.
では,ステッピング動作にはどのような特徴があるのでしょうか?
次回はステッピング動作のバイオメカニクスについてお話をしていきます.